「こっちに来て。座って。いいよ。もう怒ってない。だけど聞いて。私の話」

肘をついて見つめる色音たん

photo by Patrick Tomasso

© 2017 HEY GIRL.

 

「こっちに来て。座って。いいよ。許す。だけど、聞いて。私の話」

 

僕と彼女だけが腰を下ろす場所があって、色音が用を伝えたい時だけ、呼び出され、会う。

廃屋と廃工場が立ち並ぶ場所で、その袋小路にたどり着くためには、入り組んだ建物や、なんのためにあるのかわからない壁や鉄の仕切りを避けながら進む。

そのルートを知っていなければ、到底たどり着くことができない。

 

広い敷地の、ちょうど中心に位置する、秘密の場所だから、多少声をあげても、人の耳には届かない。

 

ここで声を荒げることなんてないけれど、世界から隔離されたような錯覚を感じられるこの場所が好きだ。

 

 

「あのね」

 

美しい。

下ろしたてのようにほつれも汚れもないセーラー服が、深海の底の水のように澄んだ肌に纏われている。

透き通るように、儚くて弱々しい彼女の背には、鉄くさくって、雨の酸で不気味に色を変えた鉄の板が、少しの風にガタガタと揺れている。

 

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