私はここにいないのだからこの店には誰もいない

バーの女の子

© 2017 HEY GIRL.

扉の鈴が鳴らないバーの、ライトの光の切れ目から、陰の中の陰を探す。

人の目に映らない場所を見ていれば、あの不愉快にきしむ音のする扉から誰かが入ってきたとしても、わたしの姿は陰にぼやけて消えるに違いない。

だれもいないカウンターに向かった客が、聞こえるか聞こえないかの声で口にした酒を入れて、やつが一瞬空を見た隙に手元においてやる。

私の前に彼がいないのだから、彼の前にも私がいるはずがない。

父が残した、「なにもしないでいい」という教えを、私はかたくなに信じている。

3人…だったか、今日も一人酒をしに、客が訪れた。

ただ酒を飲んで、空に向かって小言を呟いて帰る彼らは、どこか空っぽで、どこか幸せそうだった。

でもそんなことには興味がない。彼らの人生を、私が覗く日は、永久にやってこないのだから。

 

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